企業の成長に欠かせないのが、人の成長。
 
多くの企業が力を入れている人材育成ですが、「人材育成=教育研修」というステレオタイプなイメージを抱いている人も多いのではないでしょうか?
 
しかし、人材育成で重要なのは、教育研修といった手法ではありません。
 
今回は、マネージャー層や経営者必見の、人材育成で意識したいポイントをご紹介します。

人材育成の目的や意義とは?

 一般的に、企業それぞれの経営方針などに従い、社員に最大限の力を発揮してもらうことを目指す「人材育成」。チームメンバーの成長や成果アップを目指すプロセスとして必要不可欠なものです。
 
人材育成の目的は企業によってそれぞれですが、ここで気をつけたいのは、「必ずしも、研修などの教育機会を提供することだけが人材育成ではない」ということ。
 
もちろん、企業による教育機会の提供や人を育てる仕組みづくりは必要ですが、ビジネスパーソンとしての成長には、自ら学ぶ意思を持って学習する姿勢も大切。
 
ただ教育機会を与えるのではなく、メンバーの能動的な学習を引き出し、サポートすることもまた、人材育成の重要な意義なのです。

人材育成の代表的な手法は?

人材育成の代表的な手法としては、まず集合研修(内部・外部委託)や、部内の勉強会、公開講座、eラーニングといった研修・講座が挙げられます。
 
そのほか、企業でおこなうOJT、メンバーそれぞれが独自に取り組む自己啓発も、人材育成のひとつです。

人材育成で気をつけたい研修思考の罠

人材育成で気をつけたいのが、「研修や講習を受ければいい」という研修思考に陥ること。
 
例えば、若手社員の育成についても、外部の研修に任せきりで自社ではフォローしきれていない、なんてケースも多いのではないでしょうか。
 
しかし、研修や講習を受講するだけでは、社員の成長を促すには不十分と言わざるを得ません。
 
それを表すのが、有名な「7・2・1の法則」です。
 
これは、アメリカのとある研究機関が発表した調査結果をもとにした法則。人は約7割の学びを仕事上の経験から学び、約2割を上司や先輩の助言から学び、残りの約1割を研修などの座学で学ぶ、ということを表しています。
 
この法則になぞらえれば、研修を通しての学びはたった10%程度にしかすぎないことがわかります。
 
人材育成では、研修という手法にとらわれず、職場体験や上司・先輩によるティーチング・コーチングを含めて考えることが必要なのです。

人材育成を成功に導くポイントは?

 
人材育成が「研修手法」だけでないことをふまえたうえで、人材育成で大切なポイントを見ていきましょう。

  1. 育成する側の姿勢を見直す
  2. 本人の自発性を重視する
  3. 教育設計にとらわれすぎない
  4. 「意識しなくてもできる」まで継続する
  5. 職場で実践の機会を作る

①育成する側の姿勢を見直す

人材育成というと、若手など「育成の対象となる人」に注目しがちですが、「人材育成を進める人」の姿勢も重要です。
 
そこで参考となるのが、海軍の艦隊司令官・山本五十六が残した名言です。

やってみせ、言って聞かせて、させてみて、
ほめてやらねば、人は動かじ。
 
話し合い、耳を傾け、承認し、
任せてやらねば、人は育たず。
 
やっている、姿を感謝で見守って、
信頼せねば、人は実らず。

この言葉は、ビジネスシーンにおけるメンバーとの関わり方にも応用することが可能です。

メンバーの成長を促すには、ティーチング、コーチング、エンパワーメントと、それぞれの成長ステージに合わせた関わり方が必要となります。
 
改めて彼の名言を分解してみると、それぞれのスタンスを表しているように思えませんか?

やってみせ、言って聞かせて、させてみて、
ほめてやらねば、人は動かじ。
→ティーチング(指示・命令)
 
話し合い、耳を傾け、承認し、
任せてやらねば、人は育たず。
→コーチング(支持・支援)
 
やっている、姿を感謝で見守って、
信頼せねば、人は実らず。
→エンパワーメント(権限移譲)

人を育てるには、このようにメンバーの成長度合いに応じた関わり方が重要。
 
逆に、上司がいつまでも指示・命令するティーチングのスタンスでいては、自立・自走する部下は育ちません。
 
改めて、メンバーに対する自身の関わりを見直してみましょう。

②本人の自発性を重視する

冒頭で「研修思考の罠」をご紹介したように、人材育成のための研修を取り入れる際には、いくつかの注意点があります。
 
それは、「与えられた学びは、行動に変わりにくい」ということ。
 
例えば、講習や研修でその場では「なるほど!」と納得したはずが、実践する機会がなく一過性の学びで終わってしまったとか、数日後には何を学んだかすっかり忘れてしまった、なんて経験はありませんか?
 
座学で理解できたからといって、必ずしも行動が変わるわけではありません。与えられた学びよりも、自ら気づいたことの方が、行動に変わりやすいのです。
 
研修といった学びの場では、一方的な知識や型の詰め込みではなく、本人の気づきを促す仕掛けを大切にしましょう。

③教育設計(イントラクショナルデザイン)にとらわれすぎない

自発的な学びを重視する際のポイントとなるのが、イントラクショナルデザイン(教育設計)にとらわれすぎないこと。
 
もちろん、新入社員研修などでは「名刺交換のしかた」といったある種の「型」で教えるティーチングが必要ですが、リーダーシップやイノベーションなど答えのないテーマの場合は、「型」がむしろ思考の枠を制限してしまいます。
 
前者の場合は偶発性が生まれないよう教育設計しますが、後者のような場はむしろ偶発性を活かすような場づくりが必要となります。
 
研修テーマによっては、イントラクショナルデザインにとらわれない場づくりも大切です。

エビングハウスの「忘却曲線」をご存知ですか?
 
これは、何かを学んだ後に復習するかしないかで、定着率に大きな差が生じることを示したグラフ。もし何も復習しなければ、1時間後には56%、1日後には74%もの内容を忘れてしまうといわれています。
 
復習や繰り返しの大切さは、人材育成にも当てはまります。学びの定着を図るため、研修などを受けた後は、振り返りの機会を作ることが有効です。

また上記のように、学習には4段階のレベルがあるといわれています。
 
望ましいのは、意識しなくてもできる「無意識有能」の段階ですが、そこに到るまでには、知っていてもできない「意識無能」、意識することでできる「意識有能」という段階を経ることになります。
 
初めての名刺交換は意識をしないとできないように、理解できたからと言って、すぐに無意識でできるようになるわけではありません。
 
「知っていること」と「できること」は同じはないので、無意識にできるようになるまで、復習を繰り返すことが重要なのです。

⑤職場で実践の機会を作る

学びを一過性のものにしないためには、OJTを含む職場体験がポイントになってきます。仕事を通して、復習、実践の機会を得ることが、学びの定着にも繋がるのです。
 
マネージャー職の人は、ぜひ1on1ミーティングの時間を設けるなどして、後輩に振り返りの機会を作ってあげるとよいでしょう。
 
1on1ミーティングについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
 
そのほか、「問い」を繰り返して現実問題の本質を探りつつ、行動の実践、振り返りまでをおこなう「アクションラーニング」を取り入れるのもいいでしょう。
 
問いを通した「気づき」によって行動を起こしやすいうえ、振り返りの機会も設けられているので、一過性の学びで終わることもありません。

アクションラーニングについての詳細は、こちらの記事で解説しています。

人材育成の理解を深める本

最後に、人材育成に関する理解を深めたい人向けに、2冊の書籍をご紹介します!

①企業内人材育成入門 人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ

企業内人材育成入門 人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ/中原 淳 (著), 荒木 淳子 (著), 北村 士朗 (著)

人材育成に欠かせない心理・教育学などの基本理論が丁寧にまとめられた1冊。
 
学習のメカニズムや動機づけの理論、研修の効果、OJTなどの基礎知識がわかりやすく解説されています。
 
人事や研修担当、経営幹部は必見です!

②シリコンバレー式 最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―

シリコンバレー式 最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―/世古詞一 (著)

1on1ミーティングの意義やノウハウを体系的にまとめた入門書。
 
1on1ミーティングをテーマにした1冊ですが、「働きがいのある会社」3年連続1位の会社で実証した著者のノウハウがふんだんに紹介されいて、人材育成やマネジメントに悩んでいる管理職にぴったりです。

人材育成のポイントは「職場」にも!

「7・2・1の法則」にあったように、役立つ学びの約7割は「仕事上の経験」。
 
人材育成のコツは研修だけでなく、職場での仕事体験や上司との関わり・フィードバックにもあるのです。
 
ぜひこれを参考に、自社の人材育成のあり方を見直してみてはいかがでしょうか?
 
人材育成や組織開発、アクションラーニングの手法にご興味のある方は、ぜひ弊社クエスチョンサークルまでお問い合わせください。